北見簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人等は無罪。
理由
一、本件公訴事実の要旨
被告人等は共謀の上、所轄北見警察署長の許可を受けないで、昭和三三年三月二三日午後一時三二分頃より同日午後二時五五分頃までの間北見市北二条西二丁目一賞堂時計店附近道路において演説をして人寄せをしたものである。
二、証拠によりて確定される事実
当裁判所は取調べた証拠によつて次の事実を認定する。
本件演説会即ち北見市北二条西二丁目一賞堂時計店附近道路において行われた昭和三三年三月二三日当時、被告人等はいずれも日本共産党の北見地区委員会に所属する委員であつたこと。右演説会をなすに際し、その数日前より前記会場附近他一ケ所に、時局内外及び市政批判と題し、演説者として被告人等三名の氏名、司会者片山富美夫、主催者日本共産党北見地区委員会(実際の主催者はその下部組織にある同党北見市委員会なりとするもこの点明確ではない。)と表示せる立看板を掲げ、更に同様の表示ある「ビラ広告」数百枚を市中の電柱に貼付して事前の宣伝に務めたものなること。演説会当日は起訴状記載の日時場所において被告人後藤鉄治、同益井愛人、同日光福治の順序により各自数十分宛それぞれ演題の趣旨に基く演説をなしたこと。聴衆もその間数十名程度のもので左程交通の防害にはならなかつたこと。演説会の開催時刻に接近して私服警察官長谷川忠男が現場に来合せ(演説者は被告人後藤鉄治)写真を撮影し或は駅前交番に連絡をとり軈て横山政治、笠原孝夫両巡査が現場に臨み(演説者は被告人日光福治)被告人等に注意を与えたことから間もなく演説会は終了したこと。横山、笠原両巡査が現場に臨み被告人等に注意を与えた頃から弥次馬的聴衆が俄かに増加し、一時交通の混乱を来たしたことはあるも、横山巡査の交通整理と又間もなく演説会の終了したのと相俟つて混乱も次第に回復したものなること。被告人等において本件道路交通取締法及び同法の委任に基く同法施行細則に定むる規則即ち道路において演説等をなし人寄せをするに当つては、事前に所警察轄署長の許可を受けなければならない行為を知悉していなかつたこと。
三、公訴事実に対する判断
右に認定した諸事実に基いて、被告人等に対する公訴事実に掲げられた演説をなし人寄せをなしたことの刑責ありや否やを判断する。
本件道路交通取締法及び同法の委任に基く同法施行細則の規定するところは、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図る目的にあることは当然であつて、前記認定のように、被告人等としてはいずれも本件の演説会をなし人寄せをするに当つて、事前に所轄警察署長の許可を受けることの所謂行政的措置を必要とする規定の存在するを知らず、ためにこれがその義務を果さなかつたことは洵に明白なことである。
本件の演説会をなすに当つては、前記認定のように、その数日前より立看板、ビラ広告等を以て宣伝に務めたものであるから所轄警察署においてもこれらのことを事前に知る機会があつたものと謂うべく、事前にこれを知り得た場合は予め右演説会の主催者に対し犯罪防止の意味から警告をなすべきであり、又これが警告がなされたとするなら、尠くとも主催者において届出での上警察署長の許可を得る事前の手続はなされたものと解せられる。
而して被告人等において事前に所轄警察署長の許可を得ないで演説会をなし人寄せをなしたことは、尠くとも法令違反の結果が発生したことに疑を容れる余地はないところである。しかしながら右の事実に基き直ちに被告人等に対し刑責を負担させることができるかどうかについては更に一考を要するところである。
即ち前記認定のように、事前にその宣伝に用いた立看板、「ビラ広告」等には、いずれも主催者として日本共産党北見地区委員会(実際はその下部組織にある同党北見市委員会なりとするもこの点明確ではない。)と表示せられていたことが明かであつて、そうとすれば、本件の演説会は被告人等がそれぞれ個人の資格においてなされたものではなくて、所謂法人にあらざる政治団体の主催に係るものと謂うべきである。
又本件に関する法令の依つて来たる行政的措置を要求するところのものは、本件の如き政治団体の催物にあつてはその実行行為を負担した被告人等を直接処罰の対象となすべきものではなく、即ち政治団体の主催者としての団体の業務を執行する役員に対しこれが義務負担を強い得れば足りるものと解する。従つて本件の場合においては、前記認定のように日本共産党の北見地区委員会又はその下部組織にある北見市委員会(いずれの委員会が実際にその主催する責任を有したかは明確でなく、この点一つの争点となる。)の業務執行責任者が事前行為に対する義務違背者として責任を追求せられて処罰の対象となるべきものと解せられる。
もつとも本件の演説会を開催するに当つて、被告人等において実際の主催者であるべき委員会の業務執行責任を負担していたかどうか、これらの点については全証拠によるも必ずしも明白ではない。
そうとすれば、右に説明した如く本件の場合においては、政治団体の催しに係る演説会であつて実行行為を負担した被告人等を直接の対象としてこれが処罰をなすことができないと謂うべきであるから、爾余の点の判断をなすまでもなく、刑事訴訟法第三三六条前段に則り被告人等に対し無罪の言渡をなすこととする。
よつて主文の通り判決する。(昭和三四年一月二八日北見簡易裁判所)